長野県の北部、新潟県との境に近い「飯山市」。緑豊かな、まさに“ふるさと”の風景が広がるここに、
人形作家・高橋まゆみさんの作品を展示している「高橋まゆみ人形館」があります。わざわざででもお出かけいただきたい、行ってよかったと必ず思っていただける場所なんです。養命酒のTVCMにも登場した高橋さんのお人形は、ふるさとの里山にいそうなおじいちゃんやおばあちゃん、そして孫ちゃんの姿の組み合わせが魅力です。今回、人形館で高橋さんご本人にお会いすることができました。
結婚して長野市から飯山市に転居した高橋さん。最初に作っていたお人形たちは魔女や河童など空想の世界のものを題材にしていたそうです。それがある日、気付いてしまったんですって。目の前で汗を流して働くお年寄りたちの魅力に。当時、同居や子育てのストレスと付き合いながら人形を作っていた高橋さん。「最初に作ったおばあちゃんのお人形には『そんなにカリカリしなさんな』『そんなにイライラしなさんな』と言ってもらった気がして、自分の作った人形なのに、それに助けられた…。見るたびに心の膿というか溜まっていたものがすっと抜けていくような気がして。それから、自分が癒されるために作ってきたのがおじいちゃんやおばちゃんの人形達なんです」と、笑って振り返ってくださいました。
おんぶ紐で孫を背負ってるおばあちゃん、一服しているおじいちゃん、土手でお茶を飲んでるばあちゃん達で「よってかしー(地元言葉で“よっていきなさ~い”の意)」というタイトルのお人形…。高橋さんは「村の人たちに無言で“作って~”って言われてるみたいに、“こんなポーズどうだい?”みたいな人たちにであうんですよ」とおっしゃいます。
そんな中、病床で万華鏡を手にしているおばあちゃん、ちょっとふてくされた様子で寂しそうな顔でお酒を飲むおじいちゃんの人形がありました。これには高橋さんのご両親の姿が投影されているとのこと。「寝たきりでも楽しめるように、って母に万華鏡を持って行ったら、動かない手でずっと話さなかったんですよね…。それから、酒乱気味で大嫌いな父だったけど、飲まないと言いたい事も言えないような不器用な父だったんです。一番印象に残ってるのを形にしたのがこの『一人酒』ですね」と、教えてくださいました。どこか自分の中の親への思いと重なるところが、高橋さんの作る人形にはあって、それが心をきゅんとさせるのだと思います。ちょっと年を取って、自分の親のいいところも悪いところもかわいいトコもダメなトコもわかるようになってからここへ来ると、たまらないものがあるんじゃないでしょうか。
「ひとりぼっちのお年寄りもいるし、病気になったりもあるしマイナス面もあるけど…」と現実の日々を思いながらも「来る人みんなが、それぞれのお父さんお母さんを見てるような目で人形を見てくださってるので、 『ああ、お父さん、お母さんに会いに来てください』って言える人形館だと思うんです」と、高橋さん。「人形だけど、心の部分を大事に作ってるので、みなさん会いたくなって来てくださるのかもしれませんね」ともおっしゃってました。
そして、人形館を出たら、飯山の町を散策してください。田んぼのあぜ道から、軽トラックの陰から、ひょっこり「リアル高橋まゆみ人形」=飯山のじいちゃん&ばあちゃんが出てきます。飯山は、映画「阿弥陀堂だより」(降旗康男監督・寺尾聰・樋口可南子・北林谷榮)のロケ地でもあります。石積みの棚田を見下ろすところに撮影のために作られた阿弥陀堂が残されていて、映画の世界観がそのまま味わえます。「心のふるさと」という言葉がしっくりくる、何度も何度も帰りたくなる、すごい場所です。飯山。心がきしきし音を立ててるのに気付いたら、ぜひお出かけください。
□ 高橋まゆみ人形館 → http://www.ningyoukan.net/
□ 信州いいやま観光局 → http://www.iiyama-ouendan.net/
□ FDA フジドリームエアラインズ → http://www.fujidream.co.jp/