松本市長の菅谷昭(すげのやあきら)さんは、お医者さんでもあります。しかも、チェルノブイリの原発事故の後、放射能汚染により甲状腺がん患者が多発していたベラルーシで医療活動をなさった方なんです。甲状腺がん手術の際、より傷口を小さくできる切開法を現地に定着させた、すごい人なんです。福島第一原発事故の被害にも心をくだいていらっしゃって、現地に赴いたり講演会を引き受けたり、『子供たちを放射能から守るために(亜紀書房)』という本を出版なさったりしています。松本市内取材中に、市民の方が「うちの市長は放射能については専門家だから安心」と言っていたのが印象的でした。その菅谷市長が松本市で進めているのが「健康寿命延伸都市・松本」という構想です。健康で自立して暮らすことのできる期間を延ばしましょう!ということなんですねえ。病気や要介護状態ではなく、健康で明るい毎日を過ごせる期間を延ばす…最近よく聞く「PPK=ぴんぴんころり」と近いニュアンスですよね。
健康寿命を延ばすためにいろんな取り組みがされてますが、ひとつ例を挙げると「市民歩こう運動」があります。松本市内の35地区全てでウォーキングマップを作り、グループで歩いているんだそう。自分達で地図を作ることで、普段気付かなかった歴史的なことやお寺や旧跡に目が向いたり「こんなにいい町なんだなあ」と発見があり、さらに人と一緒に歩くとみんなが友達になり、それがそのまま町づくりにつながっていくのだとか。「健康寿命延伸が町づくりになる、というのは市民のみなさんから教わりましたねえ」と菅谷市長は微笑んでました。さらに健康寿命とは、肉体的と同時に精神的健康、あるいは社会的健康をもさしていて、家庭や職場、地域で、その人がHAPPYな状態でなければならないのだそうです。ただ、健康診断などを充実させるだけではなく、市民全体に健康が大切だということを意識づけさせることが重要であり、「命をたいせつにする町づくり」が必要なのだと説き続けてきた菅谷市長。この意識を松本市から始めて、長野県→日本中→世界へと広げたいと考えていらっしゃるんです。
□ 健康寿命延伸都市 → http://www.sugenoya.com/project/
□ 松本市 → http://www.city.matsumoto.nagano.jp/
せっかくの「健康寿命延伸都市」、外から松本を訪ねた人が感じるにはどうすればいいのでしょうか?「うーん。難しいかもしれないねえ。市民がグループで歩いてるのを見たりするとわかるかもしれないけど、無理して言うこともないと思う。」と、おっしゃりつつも「松本へ来てくれたら、青い空に緑が美しい。風光る…じゃないけど、そういう状況の中で自ずと“ここにいるとリフレッシュされる”とか“気持ちが落ち着く”とか“いいね”っていうのが、最後は“これ、健康なんだよね”って思ってもらったら。で、松本市民が健康寿命延伸都市って言えるようになったことが嬉しい」と、語ってくださいました。そうそう。私も松本空港に降りたつやいなや深呼吸して、透明な空気で背骨を伸ばしますもん。有名人で言えば、病気療養中だった小澤征爾さんが「サイトウキネンフェスティバル」でフルオーケストラ復帰、中村勘三郎さんがまつもと市民芸術館での特別公演で舞台復帰、と、まさに復活の地に松本を選んでいるんですよねえ。町全体に文化意識の高さやボランティアの熱意があるのも大きな要因だと思います。菅谷市長もその点は認め、あんまり褒めちゃいけないんだけど…と言いつつ「普段着のままのつながり・絆ができてるんだと思います」とおっしゃってました。
また、あらためて見ると松本はバランスが取れている、ともおっしゃってました。真ん中は松本城を中心に小都会的なものがあって、その中に文化施設もあれば歴史もある。水がきれいな町でもある。足を伸ばして外へ行くと回りは田園風景。その外に上高地があり北アルプスがあって、乗鞍高原とかあって、東側には美ヶ原高原があって。これはひとつの魅力かな、と思うとのご意見。そして「松本は春夏秋冬いいんですよ。僕、言うんですが“五感を大切に”って。視覚・嗅覚・聴覚・味覚。そして触覚ね。そよ風にさわる…とか、しっかり感じてほしい」と。これは、身にしみましたねえ。五感をフルに使えるのって楽しいですよねえ。特に松本は、信州は触覚満喫の旅が楽しめるんですよ。ちょっと錆びかかってても大丈夫。信州旅行で五感パワーも復活しますから(笑)。
しかし、6月に発表された2009年度の後期高齢者医療費が8年連続日本一だった福岡県。少額ベスト3に入っている長野県を見習う研修旅行を実施してもいいかもしれませんねえ。(ちなみに少ないのは、新潟・長野・富山の各県)